
山梨県北杜市、八ヶ岳の南麓。JR小海線の車窓から流れる景色がだんだんと高原らしくなってきたころ、 甲斐小泉駅に到着する。改札口もなく、駅員もいない。小さな待合室と、 古びたホームだけが静かにそこにある。
この駅の標高は1,044メートル。全JR駅の中でも第7位という高さにある。 それでも駅は飾らない。むしろその素朴さこそが、訪れる者を引きつける理由なのかもしれない。 今回は冬の甲斐小泉駅で出会った風景を、写真とともに記録していく。
目次(Table of Contents)
昭和が息づく、静かな無人駅
甲斐小泉駅には改札も駅員もいない。あるのは小さな待合室と、 年季の入ったホームだけだ。都会の駅に慣れた目には、その質素さが逆に新鮮に映る。 電光掲示板も自動改札もない。ただ「かいこいずみ」という駅名標だけが、 冬の青空の下にぽつりと立っている。

時間が止まったようなホーム
かつてはここにも対面式ホーム2面2線があったという。 今は片側のレールが剥がされ、1面1線のみが残る。 使われなくなった空間には草が生え、冬には枯れ色に染まる。 でもそれが廃れた印象よりも、むしろ「時間が静かに積み重なった場所」という 厳かな雰囲気を醸し出していた。

無人駅だからこそ感じる「場の空気」
有人駅には人の気配がある。アナウンスが流れ、切符を売る音がして、 日常の喧騒がある。しかし無人駅には土地そのものの気配がある。 風の音、遠くの山の稜線、そして時々やってくる列車の音。 甲斐小泉駅で過ごす時間は、旅をしているという実感をじわじわと呼び起こしてくれた。
改札も駅員もいない。
あるのは小さな待合室と、昭和のにおいがする古びたホームだけ。
それでも、この駅にはたしかな「存在感」があった。
甲斐小泉駅 基本情報
Elevation · 標高
1,044 m
全JR駅中 第7位の高標高駅
無人駅
1面1線(棒線駅)
待合室あり・トイレあり
Open · 開業
1933年(昭和8年)
7月27日 国鉄小海南線として開業
1987年 JR東日本に移管
Operator · 運営
東日本旅客鉄道
(JR東日本)
八王子支社 管轄
Region · 所在地域
八ヶ岳南麓 北杜市
旧・北巨摩郡長坂町
2004年に北杜市へ合併
Access · アクセス
| 🚃 電車 | JR中央本線 小淵沢駅で小海線に乗り換え、約10分 新宿駅から特急あずさ利用で約2時間10分 甲斐小泉駅 時刻表 |
|---|---|
| 🚗 車(東京方面) | 中央道 小淵沢IC から県道11号経由で約6km・10分 中央道 長坂IC から約16km・20分 |
| 🅿️ 駐車場 | 駅前に無料駐車スペースあり(台数少なめ) 三分一湧水公園の無料駐車場(普通車80台)も利用可 |
| 🚌 バス | JR中央本線 長坂駅 から市営バス(小泉駅行き)で約20分 |
正面が駅舎で、右側が駐車場です。5台ほど停められる。
単線が伸びる、冬枯れの風景
甲斐小泉駅のホームに降り立つと、まず目に飛び込んでくるのはどこまでも続く一本のレールだ。 複線でも高架でもない。ただ一筋の線路が、枯れ草と冬木立の間をまっすぐ、あるいはゆるやかにカーブしながら、 山の向こうへと消えていく。その光景は、鉄道写真を撮り始めた頃に憧れた、「どこかに続く線路」そのものだった。

静けさが教えてくれること
列車が来ない時間、駅はひっそりと静まり返っている。 風が枯れたすすきを揺らす音だけが聞こえる。 都市部の駅では決して味わえない「鉄道のある風景」がここにはある。 線路は交通インフラである前に、この土地に深く根を張った生きた構造物だと気づかされる。
レールはまっすぐ、あるいはゆるやかに曲がりながら、山の向こうへと続いていく。
その先に何があるのか——それを想像するだけで、旅はもう始まっている。
カーブが生み出す奥行きと趣

甲斐小泉駅の線路の魅力のひとつが、緩やかなカーブだ。 まっすぐな線路には清潔感があるが、カーブには物語がある。 曲線の先が見えないからこそ、次の瞬間への期待が高まる。 信号機が手前に立ち、その奥で線路が弧を描いてフレームの外へと消えていく構図は、まるで映画のワンシーンのような奥行きを生み出していた。

冬だからこそ見える骨格
葉を落とした木々が空に向かって枝を広げ、その向こうに冬晴れの青空が広がっている。 緑が茂る季節には隠れてしまうであろう電柱、架線、信号機—— 冬はそれらが剥き出しになり、鉄道という構造物の骨格を正直に見せてくれる。 これもまた、冬の撮影だからこそ出会える表情だ。
カーブの先から現れる、緑の列車
待つこと数十分。静寂を破るように、遠くからレールを伝う振動が来た。 カーブの向こう、枯れ木の隙間から緑色の車体がゆっくりと姿を現す。 JR小海線を走るキハ110系気動車だ。山岳地帯を走るために生まれた車両は、 この高原の風景に驚くほど自然に溶け込んでいる。

信号機と列車が作る「鉄道らしい構図」
この場所で特に気に入ったのが、信号機と列車の関係だ。 手前に立つ信号機のひし形の標識、その奥をゆっくりと近づいてくる列車—— この二つの要素が重なるとき、写真は単なる記録を超えて一枚の絵になる。 アナログな機材と、デジタルな時代に残るローカル線。そのコントラストが面白い。
アプローチショットの醍醐味
列車が遠くに小さく見えるシーンから、だんだんと大きくなっていく過程は、 鉄道写真の「アプローチショット」の醍醐味だ。 単線ゆえに線路の真ん中を列車が走ってくる。逃げ場のない一本道を、 正面から迎え撃つような緊張感がある。シャッターを切る瞬間の集中力もまた、 この撮影の楽しさのひとつだ。
枯れ木の間、カーブした線路の向こうから
キハ110系がゆっくりと姿を現した。
その緑は、冬の茶色い風景の中でひときわ鮮やかだった。
緑の車体が駅に入ってくる瞬間
いよいよ列車がホームへ近づいてくる。 エンジン音が大きくなり、車輪とレールが触れる金属音が響く。 無人駅の静寂の中では、その音がひときわ存在感を持って迫ってくる。 カメラを構えながら、次の瞬間に備えた。

正面顔が持つ迫力

列車の正面を真っ直ぐに捉えた写真には、独特の緊張感と迫力がある。 ヘッドライトが二つの目のように光り、行先表示幕が「小淵沢」を示している。 緑と白のツートンカラーは、国鉄時代から続く小海線の象徴的な塗装だ。 何十年も変わらないその顔が、この昭和の駅に実によく似合っていた。

停車中の静けさもまた、絵になる
列車がホームに停車すると、再び静けさが戻ってくる。 ドアが開いても、乗り降りする人はわずかだ。 エンジンの低いアイドリング音だけが響く中、列車と駅がただそこにある時間が流れる。 停車シーンを横から捉えた写真は、動きのある入線シーンとは異なる「静止した時間」を記録してくれた。

冬晴れの空と、雪をまとった大きな山
列車を見送った後、ふとホームの端に立ってみた。 すると視界の向こうに、稜線に雪をたたえた白い山が広がっていた。 甲斐駒ヶ岳だろうか——冬晴れの澄んだ空気の中、その輪郭は恐ろしいほどくっきりと見えた。標高1,044メートルの駅だからこそ届く、圧倒的な山の近さだ。

高原の駅だからこそ出会える風景
都市部の駅からは、こんな景色は見えない。 改札を出て商業施設へ——ではなく、ホームの端に立つだけで大自然の中にいる実感がある。 鉄道に乗って来た先に、こんな景色が待っているということを、もっと多くの人に知ってほしいと思った。
列車と山を一枚に収める贅沢
甲斐小泉駅ではタイミングが合えば、雪山をバックに走る列車を撮影することができる。 緑の車体、白い雪山、冬晴れの青空——この三つが揃った瞬間を狙うのが、 次回への目標ができた。高原の小さな無人駅は、何度でも訪れたくなる場所だと気づいた。
ホームの端に立つと、稜線に雪をたたえた山が
青空の中にくっきりと浮かんでいた。
列車を待つ時間が、こんなに豊かであるとは思わなかった。

甲斐小泉駅は、また来たくなる駅だった

甲斐小泉駅は、観光地として整備された場所ではない。 華やかな看板も、土産物屋も、行列のできるグルメスポットもない。 あるのは古びたホームと、一本の線路と、広い空だけだ。
しかしだからこそ、この駅には時間の流れそのものが残っている。 昭和の空気、枯れ草の匂い、遠くの山の白さ——そういうものが、 スマホの画面では決して伝わらない「本物の質感」を持って迫ってくる。
鉄道写真を撮る人にとっても、静かな旅がしたい人にとっても、 甲斐小泉駅はゆっくりと時間をかけて味わう価値のある場所だと思う。 次は新緑の季節に、また訪れてみたい。
旅行にぴったりの一眼カメラ
Photo Data · 撮影情報
撮影機材Nikon Zfc
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