
箱根の森を抜けて森の遊歩道からたどり着いたポーラ美術館。今回は、その館内をじっくり巡ってみることにした。ガラス張りの建築を活かした展示室や、モネの絵画、現代アートのインスタレーションまで、写真好きの視点で見どころを紹介していきたい。
ポーラ美術館への緑のトンネルの歩道
入口から期待感が募る、ガラス張りで明るく遠近感を感じる建築デザイン。

木々のトンネルを通り、ポーラ美術館の入口に進む。トンネルの先の明るい空間は何かと興味が湧いてくる。


途中、板東優作《雪の子》が出迎えてくれる。正面にあるこの愛らしい像がどんな意味を持つのか気になり、しばらく立ち止まって考えてしまった。
下りのエスカレーターに吸い寄せられる

地上からエントランスへと下るエスカレーターは、まるで空へ吸い込まれていくような開放感がある。振り返るたびに空を切り取るガラスの意匠が美しく、何度もシャッターを切ってしまった。




踊り場からは、青木野枝氏の鉄彫刻《雲谷/仙石原》を見下ろすこともできる。無機質なはずの鉄が、まるで水蒸気のように軽やかに広がっているのが印象的だった。
大型ネオン作品
エスカレーターを降りてまず目を引くのは、圧倒的なスケールで浮遊する巨大なネオン作品。見る角度や光の入り方によって表情が変わる。


この作品はイギリス出身のアーティスト、ケリス・ウィン・エヴァンスによる《The Illuminating Gas (after Oculist Witnesses)》。378×319×191cmという圧倒的なスケールのネオン作品で、美術館ロビーの吹き抜けに浮かぶように展示されている。タイトルはマルセル・デュシャンの作品を引用したもので、光という非物質的な素材を用いた作風がよく表れている。2020年、アジアでは初となるウィン・エヴァンスの個展としてこの美術館で公開された。
モネの展示
モネ没後100年・開館25周年記念展「あたらしい目 ― モネと21世紀のアート」は、2027年4月7日(水)まで開催中。


モネの絵を鑑賞する人々も絵になる

夕日に照らされた部屋

夕日に照らされたヨーロッパ風の部屋。当時どんな方が暮らして、どんなドラマがあったのだろうかと、5分以上ここで眺めてしまった。
ピンクとブルーの光と色彩のグラデーション

今までの絵画鑑賞のエリアからいきなり刺激的でカラフルなコントラストのある部屋が現れる。今までの色彩感覚がガラッと変わる。どこを見て何を考えればよいのか、頭が真っ白になった。

🔎 作品情報(参考)
作者はカナダ出身のアーティスト、カプワニ・キワンガ。作品名は《Pink-Blue》。1970年代の米国の刑務所で攻撃性を和らげる目的に使われた色彩心理実験(ベイカー・ミラー・ピンクなど)を参照した、没入型の色と光のインスタレーションとされる。
キャンディのインスタレーション

部屋一面に敷き詰められたキャンディー。窓から差し込む光の加減で、見る方向によって作品の印象が変わる。芥川龍之介の『蜘蛛の糸』をふと思い浮かべた。キャンディーは私たち人々で、上にいるのは世の中を支配する上級国民なのではないかと、少しネガティブなことを考えてしまった。

キャンディーを持ち帰って撮影している方がいて、後から考えると私もそうすればよかったと少し後悔した。
🔎 作品情報(参考)
作者はフェリックス・ゴンザレス=トレス。作品名は《"無題"(マルセル・ブリアンの肖像)》。床一面に敷き詰められた青いセロファン包みの飴は、鑑賞者が1粒持ち帰ることができる参加型の作品として知られる。
ピエール・ユイグ 異系知性(淵)
近づくまでは何だろう、たわしかな、蜂の巣かなと興味をそそられ、想像が膨らんでいく。

横から見ると、人間の頭部がミツバチの巣に覆われていた。

私が思うに、この大きな蜂の巣に覆われた頭は、AIによって思考が均一化され、考え方まで統一されてしまった人間の姿を暗示しているように見えた。近い将来、身体は人間のままでも思考回路だけはロボットのようになってしまうのではという危惧すら覚えた。そうならないためにも、美術鑑賞のように五感で触れて自ら考える時間が必要だと感じた。(2026年8月)

🔎 作品情報(参考)
ピエール・ユイグが2017年に制作。ロダンの弟子である戸張孤雁の彫刻《淵》(1924年)に着想を得ており、人間中心主義とは異なる世界の見方や、他者(非人間)との関係性を問い直す作品とされる。
今坂庸二朗

モノクロの黒と白で描かれた風景。ただの写真ではなく、ガラス板(湿板写真など)に焼き付けられている。今はデジタルカメラ、その前はフィルムカメラが主流だったが、100年以上前はガラス板に焼き付けていた。フィルムがないため焼き増しができない、唯一無二の写真だ。用紙にプリントするのではなくガラスに焼き付けているため経年劣化が抑えられ、当時の面影をそのまま残すことができる。

🔎 作品情報(参考)
今坂庸二朗は、19世紀の湿板写真と大判カメラという古典技法で制作する。理想の光が差す一瞬を待ち、移動式暗室で即座に現像するこの手法で撮ったのが、ルイジアナ州の湿地帯を写した全76点の「Wet Land」シリーズだ。モネの瑞々しい視覚体験と重なる、100年色褪せない一枚。
アール・ヌーヴォー期のガラス工芸
色の使い方が濃く、上品に仕上がっている。色どりも豊かでコントラストも美しい。

🔎 作品情報(参考)
エミール・ガレやドーム兄弟、ルイス・C・ティファニーらによる、アール・ヌーヴォー期を代表するガラス花瓶のコレクション。
ヘンリー・ムーアの座る女
太陽光に照らされた作品。光の強弱によって作品の雰囲気も異なる。


🔎 作品情報(参考)
《座る女のための習作》は、20世紀を代表するイギリスの彫刻家ヘンリー・ムーアが1980年に制作したブロンズ彫刻。自然の形態からインスピレーションを得た有機的なフォルムが特徴で、彼の彫刻に対する哲学が凝縮された一作とされる。
施設
カフェ チューン

右側から光が差し込み、左に行くほど落ち着いた雰囲気になる。奥には森を望むことができ、ここでゆったりお茶をするのも良い。

カフェ チューンのテーブル席と森、そしてガラスに反射した大型ネオン作品。
ミュージアムショップ

展示されている作品の絵ハガキやノート、ハンカチなどを購入できる。気に入った作品があれば、ぜひ手に取って持ち帰りたい。

無料ロッカー

無料のコインロッカーが整備されている。貴重品だけ持って身軽にし、作品を楽しみたい。写真の左側にはキャリーケースも保管できるようになっている。
トイレ
すりガラスから淡い光が入ってくる、洗練されたトイレ。ここもまた、この美術館らしい作品のひとつだと思う。

森の遊歩道
美術館の展示をひと通り楽しんだあとは、館内の奥から続く森の遊歩道へ向かうのがおすすめの順路だ。全長約1kmの散策路には彫刻作品やスーザン・フィリップスの音のアートが点在し、館内とはまた違う静かな時間が流れている。屋内の熱気を忘れて木々の中を歩きたくなったら、続きはこちらの記事でどうぞ。

全長約1kmの森の遊歩道で出会った彫刻とアートについてはこちら。
続きを読む ›よくある質問
ポーラ美術館の何がすごいのですか?
建築家・安田幸一氏(当時日建設計)が手がけた、山の斜面に沈めるように建てられたガラス張りの建築そのものが見どころのひとつ。加えて、創業家2代目の鈴木常司氏が40数年かけて収集した印象派を中心とする絵画コレクションと、現代アートのインスタレーションまでを、森の遊歩道とあわせて一日かけて楽しめる点が高く評価されている。
ポーラ美術館はゴッホの作品を何点所蔵していますか?
公式サイトでは所蔵点数を明記していないが、代表作《アザミの花》などを収蔵しており、2025年には所蔵作を中心とした企画展「ゴッホ・インパクト―生成する情熱」も開催された。正確な収蔵作品を確認したい場合は、公式コレクションページの「フィンセント・ファン・ゴッホ」の項目で一覧を見るのがおすすめだ。
ポーラ美術館はどんな美術館ですか?
2002年9月開館。ポーラ創業家2代目・鈴木常司氏が40数年かけて収集した、印象派を中心とする西洋絵画コレクションがベースになっている。モネ、ルノワール、ピカソ、ゴッホといった近代絵画から現代アートのインスタレーションまで、19〜20世紀の美術史を体系的にたどれる構成になっている。
ポーラ美術館は今何をしているの?
2027年4月7日(水)まで、モネ没後100年・開館25周年記念展「あたらしい目 ― モネと21世紀のアート」を開催中。モネの油彩画と現代アートが同じ空間で対話するように展示されている、本記事で紹介した内容もこの企画展の様子だ。
ポーラ美術館にレストランやカフェはありますか?
館内にレストラン「アレイ」とカフェ「チューン」がある。レストランは11:00〜17:00(ラストオーダー16:00)営業で、9名までは公式サイトから事前予約が可能。混雑が予想される時期は予約しておくと安心だ。カフェは気軽にお茶をしたいときにおすすめ。
ポーラ美術館の割引はありますか?
障がい者手帳の提示で入館料が1,100円になる割引がある。このほか、箱根の宿泊施設に置かれているパンフレットの割引券が使える場合もあるので、宿泊先やチケット購入時に確認しておくとお得だ。
訪問者の声
「入口からエスカレーターで降りていく空間体験が、透明感にあふれた瑞々しい建築」「ガラスが多用されていて館内は非常に明るく、地下の展示室へ向かうエスカレーター付近も開放感があり圧迫感がない」など、建築そのものを目当てに訪れるファンも多い。
「モネの作品が数多く展示されていて、想像以上に見応えがあった」「モネ、ゴッホ、ルノワールなど印象派だけでなく現代アート作品も多く、企画展の展示にしばし見入ってしまった」といった声が多く、印象派から現代アートまで幅の広いコレクションが評価されている。
「入り口付近に大きな荷物も入る無料ロッカーがある」「公式アプリでチケットを事前購入できるので、混雑時期は列に並ばずに済む」「チケットは当日中なら再入場も可能」など、快適に館内を回るための工夫を教えてくれる口コミが目立った。
「小田原駅からのバスがなくなり、強羅駅までの登山電車も時間がかかるようになった」「結局、強羅経由ではなく路線バスを乗り継いで向かった」という声もあった。車を使わない場合は強羅駅からの無料送迎バス(1日13便・約30分間隔)が頼りになるので、事前に本数と乗換時刻を確認し、余裕を持ったスケジュールで向かうと安心だ。
「レストランは高めだが美味しくて綺麗」という声がある一方、「車椅子の場合メインエントランスからは入りにくく、エスカレーターを車椅子用に操作してもらう必要がある」という指摘もあった。車椅子でご来館の際は、事前に対応可能な入口をスタッフに確認しておくとスムーズだ。
「企画展の中に数点だけ撮影禁止の作品があり、表示が見えにくくてうっかり撮影してしまった人がいた」という声も。館内が全面撮影禁止というわけではないが、展示室内の表示をよく確認しながら鑑賞するのがおすすめだ。
アクセス
電車の場合は、箱根登山電車の強羅駅が最寄り駅。そこから無料送迎バスに乗り換えれば、美術館まで約8分で到着する。送迎バスは1日13便、約30分間隔で運行しているので、駅の到着時刻に合わせて計画すると待ち時間が少なく済む。

駅と美術館を結ぶ無料送迎バスの乗り場。
新宿や池尻大橋からは、小田急箱根高速バスで「仙郷楼」下車後、観光施設めぐりバスに乗り換えて「ポーラ美術館」バス停で下車するルートもある。車の場合は、東名高速で御殿場ICへ抜け国道138号線を進むルートと、小田原厚木道路で箱根口ICへ抜けるルートの2通り。カーナビは施設名「ポーラ美術館」で検索すると迷わず到着できる。
チケット
個人での来館なら日時指定の予約は不要で、大人2,200円・大学高校生1,700円・中学生以下無料の入館料を、当日窓口かオンラインチケットで用意すればそのまま入館できる。障がい者手帳をお持ちの方は、本人と付添者1名まで1,100円だ。
連休や休日の日中は当日券の窓口に列ができることがあり、展示室内の人数制限で少し待つ場合もある。並ばずに入りたいときは、箱根登山鉄道の箱根湯本駅・強羅駅や箱根登山バスの案内所、小田原パーキングエリアで購入できる前売り券、または公式オンラインチケットを事前に用意しておくとスムーズだ。駐車場も混雑時は満車になることがあるので、車で向かう場合は時間に余裕を持ちたい。
15名以上の団体やチャーターバスでの来館は、個人とは別に事前予約が必要になる。
モネ展のチケットは、通常の入館券と別に必要ですか?
いいえ、追加料金はかからない。通常の入館料(大人2,200円・大学高校生1,700円・中学生以下無料)で、モネ展を含む企画展とコレクション展の両方を鑑賞できる。個人での来館は日時指定予約が不要なので、好きな時間に訪れられる。
チケットは当日窓口でも購入できますか?
はい、当日窓口での購入が可能で、事前予約なしで入館できる。ただし休日の日中など混雑する時間帯は購入列ができることもあるので、並ばずに入りたい場合は前売り券や公式オンラインチケットを事前に用意しておくと安心だ。
基本情報
| 施設名 | ポーラ美術館 |
| 住所 | 〒250-0631 神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285 |
| TEL | 0460-84-2111 |
| 開館時間 | 9:00〜17:00(入館は16:30まで) |
| 休館日 | 年中無休(展示替えのため臨時休館あり) |
| 入館料 | 大人2,200円/大学・高校生1,700円/中学生以下無料 |
| 駐車場 | 乗用車129台(1日700円、EV充電器あり) |
※開館時間・料金・休館日は変更されることがあります。訪問前に公式サイトで最新情報をご確認ください。
まとめ
ポーラ美術館は、大自然の中の散策、光を取り入れた建築、数々の作品で楽しませてくれる場所だった。館内を巡っているだけで、写真好きとしては被写体に困ることがない。ぜひ森の遊歩道とあわせて、一日かけてゆっくり訪れてみてほしい。

箱根のもう一つの野外美術館、彫刻の森美術館のアクセスと入館料、見どころをまとめて紹介。
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