ポーラ美術館「森の遊歩道」彫刻とアートに出会う箱根散策

全長約1kmの森の中の散策路を、美術鑑賞をしながら楽しめる。この日は7月末で箱根といえども少し蒸し暑い感じがした。しかし、森の中に足を踏み入れると、優しい風が涼しさを運んでくる。また小鳥のさえずりや新緑が揺れる音が心を和ませてくれる。

歩道の先に何があるのか期待が募る

木立に包まれた小径は緩やかに折れながら奥へと続き、この先に何があるのだろうと胸が高鳴る。木漏れ日がアスファルトの上に不揃いな影を落とし、その一瞬の模様にレンズを向けたくなる。風が吹くたびに木の葉がさざめき、光の粒がちらちらと揺れる。ただの通路のはずなのに、まるで一枚の絵の中を歩いているような気持ちにさせられた。

ポーラ美術館 森の遊歩道

ファミリーの輪郭

ポーラ美術館 森の遊 板東優氏のブロンズ彫刻作品《ファミリーの輪郭》

散策路を進んでいると、木々の隙間からふいにブロンズの人影が現れる。板東優氏によるこの《ファミリーの輪郭》は、寄り添う家族の姿を柔らかな曲線だけで表現した作品だ。金属特有の重みがありながら、輪郭線はどこまでも優しい。周囲の緑に溶け込むようでいて、光の当たり方でその表情が刻々と変わって見えるのが面白かった。

ポーラ美術館 森の遊 板東優氏のブロンズ彫刻作品《ファミリーの輪郭》

フルートの音色

ポーラ美術館 葉っぱ

森の奥に入っていくと、どこからかフルートの音色が聞こえてくる。どこで演奏しているのだろうかと、心が弾み足早になる。しかし進むたびに、その先には誰もいない森が広がるばかり。よく耳を澄ますと、木立に隠されたスピーカーから音楽が流れていた。どうやら国際的に活躍するアーティスト、スーザン・フィリップスさんによる音のインスタレーションのようだ。

ポーラ美術館 森の遊歩道

参考:ポーラ美術館 プレスリリース(2020年7月15日)

さまざまな野鳥のさえずりを聞ける

ポーラ美術館の森の遊歩道 野鳥説明板

フルートの音色に耳を澄ませていると、その隙間を縫うように野鳥の声が響いてくる。この森にはブナやヒメシャラが茂り、巣箱で子育てをすることもあるヤマガラをはじめ、コガラやゴジュウカラ、キツツキの仲間であるアカゲラ、イカルなどの姿も見られるという。姿は見えなくても、いくつもの鳴き声が重なり合うだけで、この森の豊かさが伝わってきた。

ポーラ美術館の森の遊歩道 の説明板

生と生

遊歩道を歩いていると、木々の間に何やら平べったいものが横たわっているのに気づく。板東優氏による《生と生》(2016年)という作品だ。板状のブロンズが幾重にも折り重なるように配置されていて、地層のような、あるいは重なり合う生命のような不思議な存在感を放っていた。木漏れ日が当たる角度によって陰影が変わり、しゃがみ込んでしばらく眺めてしまった。

ポーラ美術館 森の遊歩道 板東優 ブロンズ彫刻作品《生と生》
ポーラ美術館 森の遊歩道 板東優 ブロンズ彫刻作品《生と生》

鳥葬

ポーラ美術館の森の遊歩道 ロニ・ホーンの円柱状のガラス彫刻作品《鳥葬》

円柱状に鋳造された分厚いガラスの塊が、木々の間にひっそりと据えられている。ロニ・ホーンによる《鳥葬(箱根)》というタイトルの重みに反して、その表面は空や周囲の緑を映し込み、静かに呼吸しているようだった。透明でありながら奥行きのある質感は、写真に収めようとするたびに違う表情を見せてくる。近づくほどに、その透明度と厚みの対比に見入ってしまう作品だった。

ポーラ美術館の森の遊歩道 鳥葬に浮く木の実

角度を変えて眺めると、ガラスの内側の窪みに木の実や落ち葉が浮かんでいるのに気づく。作品の上にたまたま落ちてきた木の実が、まるで初めからそこに漂っているかのように見えて、思わず足を止めてしまった。ガラスというひんやりとした人工物の中に、森の時間がそのまま閉じ込められているようで、自然と人工物の境界が溶け合う瞬間を切り取れた気がした。

Light Odyssey

ポーラ美術館の森の遊歩道 Light Odyssey

縦位置でしか収まりきらないほど高く伸びる作品が、木々の間から差し込む光を受けて表情を変えていく。《Light Odyssey》というタイトルの通り、光そのものが主役になっているような作品だ。見上げる角度や時間帯によって陰影の出方が大きく変わるので、通り過ぎることができず、何枚もシャッターを切ってしまった。

ポーラ美術館の森の遊歩道 Light Odyssey

その他

ポーラ美術館 森の遊歩道 大きな切り株

森の中にはこの他にも見どころが点在している。年輪を重ねた大きな切り株、佐藤忠氏による静謐な屋外彫刻《Untitled #68》、そして板東優氏のブロンズ作品《アニマ》。

ポーラ美術館の森の遊歩道 佐藤忠氏による屋外彫刻作品 佐藤忠 Untitled #68 2013年

どれも派手な演出はないけれど、木々の合間にひっそりと佇む姿には、足を止めてじっくり眺めたくなるだけの存在感があった。散策路そのものが、ひとつの野外美術館になっている。

ポーラ美術館の森の遊歩道 板東優 アニマ 2018年

しあわせな犬

ポーラ美術館 森の遊歩道 しあわせな犬 美術館の裏

屋外アトリウムに差しかかると、2匹の犬がユーモラスなポーズで戯れるブロンズ彫刻に出会う。籔内佐斗司氏による《しあわせな犬》という作品で、タイトルの通り見ているだけで頬が緩んでしまう。ブロンズとFRPという異なる質感が組み合わされているせいか、硬質さの中にどこか温かみが残る。豊かな緑に囲まれた空間に置かれているからこそ、この愛らしさが際立つのだと思う。

ポーラ美術館 森の遊歩道 しあわせな犬 美術館の裏

新緑が映り込む、美術館のもうひとつの顔

遊歩道を進んで美術館の裏手に回り込むと、ガラス張りの外壁に新緑が映り込み、思いがけず美しい表情を見せてくれる。表玄関からは見えないこの角度こそ、写真好きにはたまらないアングルだと思う。反射した緑と実際の緑が重なり合い、どこまでが本物の木々なのか一瞬わからなくなる。光の反射と緑のグラデーションを、しばらく飽きずに眺めていた。

ポーラ美術館 森の遊歩道 新緑と光の反射
ポーラ美術館 森の遊歩道 美術館の裏側であるが美しい

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